会長本人の葬儀用意

私は都内にございます小さな建設会社の事務をしております。これは私が勤めます会社の会長が98歳でお亡くなりになられた時のエピソードです。
会長が亡くなられたその日、私たち社員は年に1回開催される慰安懇親会をしておりました。予め近隣のレストランを予約しお料理とお酒を全員で頂く、忘年会のような感覚の宴会です。社の恒例行事のひとつで、毎年10月の第三金曜日にと決まっておりました。
会長はその1ヶ月ほど前に倒れられ、ずっと意識のない状態でしたが、会長の奥様から全社員に対して「病院で安静にしている」という通達があり、社員は通常通りの業務を続けておりました。それは会長のご遺志に沿って、会長と奥様が事前に決めていたことでした。
しかし、そのなかで私と同僚の女子事務員の2人だけは、一般社員にもかかわらず会長のご容態を把握していました。もしものことがあった際に、葬儀の参列者皆様のお顔やお名前等をきちんと把握し、失礼のないようにお迎えする受付をするためでした。
宴会の翌日に会長の訃報を知らされた社員の中には泣き崩れる者もおりましたが、事前に決めていた通り、滞りなく葬儀は進みました。もちろん、受付を予め任されていた私と同僚も心情は重く寂しさもひとしおでしたが、それ以上に、ご自分に何かあった時のことをここまでご用意されていた会長と奥様の、ひとつの覚悟を見たような気がしていました。
社員を抱え、会長に就いてなお、ご縁のあるお客様がご参列くださる時のことを考慮されていたことは、私の中に大きく残りました。小さな会社ですが、偉大な方の生涯の一端を垣間見たような経験でした。

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